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May 07, 2008

漫画「奈緒子」

小学館文庫、全25巻を読破。格安で中古を揃えられたので
ネットで転売して利ざやを稼ぐ予定だった。なのに、はまった。
このまま手元に置いておこうか、思案中の作品となった。

まずタイトルがいい。作品ジャンルとしては青年コミックの
現代スポ根もので、陸上競技の駅伝・マラソンがテーマ。正直
汗臭いし泥臭いし熱いし、派手ではない物語だ。だが作中の
重要人物「奈緒子」の名を冠し、彼女を一貫して語り手として
起用したことで、作品にさわやかな風が吹いた。もしこの題で
なかったら、作者も読者も、暑苦しさに息切れしていたと思う。

ある天才少年と多くの青年少年と、ひとりの少女の成長物語。
それを見守る大人たち。それらをすべて包み込む架空の離島
「波切島」の大自然と島の素朴な暮らしとが、彼らを育んでゆく。

島を離れて彼らが挑む競技会での迫力ある駆け引きも面白いが、
走る場面にすっと織り込まれる回想シーンが、また、いい。

競技中に選手が幾度となく遭遇する肉体的、精神的な試練を、
島での生活や、積み重ねた厳しい練習や、当時のちょっとした
会話が、救う。体力が限界でも耐えてふんばる気力を培ってきた
陸上部員たちは、皆がタスキをつなぐ駅伝大会で、力を発揮する。
親譲りのずばぬけた才能を持つ「壱岐雄介」も、友や家族や
「奈緒子」とのふれ合いを通じて、一流ランナーになってゆく。

そう、競技と平行して展開されるのが、壱岐雄介と兄の大介と
篠宮奈緒子との、切っても切れない結びつきのストーリー。

雄介と大介の父、壱岐健介は、将来を嘱望されたランナーだった。
しかし経済的事情で高校進学も陸上競技も断念し、漁師となって
島で同級生と所帯を持つ。雄介をわが才能を継ぐランナーに育て、
大介は看護婦である妻、和子の学力を受け継いだ医者とするべく
兄弟の個性を活かし、のびのびと育てていた。

だが雄介が小学一年生のとき、東京から篠宮一家が島を訪れる。
瀬渡しの船頭に雇われた健介は、船から海に落ちた幼い奈緒子を
救うために海に飛び込み、帰らぬ人となったのだ。

雄介は大好きな父を奪った奈緒子を憎むが、大介は知らされぬまま
数年後に奈緒子と再会し、彼女に恋心を抱く。その奈緒子は、
雄介に詫びる気持を捨てられぬまま波切島に移住し、陸上部に入る。
そして雄介と奈緒子は互いの走る姿や競技会に向けた気構えを
見るうちに、認め合い、陸上を通して支え合う存在となってゆく。

各話の最後に、奈緒子が淡々としたナレーションで状況と心境を
語る。彼女は雄介だけを見ているが、それを見守る大介は・・・

男臭い駅伝やマラソン大会の場面が連続するストーリーだが
この淡い三角関係が底に流れるためか、読後感は案外軽い。

さらに作中の大人が、教育者として印象に残る人物ばかりときた。

波切島高校陸上部の西浦監督や、実は陸上の名伯楽である老漁師
「権(ごん)じい」、陸上部員の父である島の病院長、それに
壱岐兄弟の母、壱岐和子看護婦長と、回想シーンの父、健介。

情報に踊らされず、見たもの感じたものを大切にする島の暮らし。
こどもの個性と可能性を信じ、全力で背中を見せて育てる大人たち。
親として、わたし自身が反省させられることの多い物語でもあった。

あぁ、通読したら手放すつもりだったのに!

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